日本の金融教育の歴史と内容(学校編)

これまでの記事で日本の金融教育の現状について触れましたが、学校においてはどのような金融教育がされてきたのか、変遷とその内容をまとめてみたいと思います。

日本における戦後の金融教育の変遷

戦後は「貯蓄奨励運動」から

第二次世界大戦での敗戦を受け、我が国は戦後復興に向けて莫大な資金が必要となりました。

国民の貯蓄した資産(一般家計資産)は国債発行の財源に直結するため、政府と日銀が主導して国民に貯蓄を奨励しました。

1952年には渋沢栄一氏の孫である渋沢敬三氏が初代会長となって「貯蓄増強中央委員会」が設立され、全国一体で貯蓄が推進されました。

なお、この時点では、学校における金融教育は実施されていないと推察されます。

 

高度経済成長期における「消費者教育」の導入と併せて、学校での金融教育がスタート

1955年頃から我が国は高度経済成長期に突入し、消費が盛んになると、国が主体となっての「消費者教育」が動き出しました。

1963年に国民生活向上対策審議会が初めて消費者教育に関する答申を提出し、「自主性をもった賢い消費者」を育成するという目標が掲げられています。

そして、群馬大学の山田博文氏・前田裕貴氏共著の「日本の消費者教育の歴史と課題(2011年9月)」によれば、上記組織の後継である国民生活審議会の第一次答申では、一般社会で行われる消費者教育だけでなく、学校で行われる「学校消費者教育」について言及がありました。

①消費者教育が散在しており、体系化されていないこと。
②社会科においては政経理解に注力されており、「消費者」の概念が弱いこと。
③商業や家庭科は受講者が少ないこと。
④現場の教員に消費者教育に対する熱意や知識が不足していること。

このような問題点が挙げられており、限定的ながら学校での消費者教育がスタートしていることがうかがい知れます。

また、学校消費者教育の導入期の学習指導要領から、当時の金融教育方針と内容について同著では以下のように分析しています。

①積極的に消費者教育が推進されていた。
②社会科では社会システムが中心であった。
③家庭科では個人の消費行動が中心であった。

 

1970年代からは停滞期

1971年のニクソン・ショック、その後のオイルショックなど、1970年代は国民の生活にも与える影響が大きい経済の動乱期でした。

当時の学校金融教育は停滞期で、国民生活審議会の報告書を見ても大きな進展はなく、1977年告示の小中学校学習指導要領と1978年告示の高等学校学習指導要領を見ても特に進展はなかったようです。

ということで、当時は「法による消費者保護」に主眼がおかれており、消費者保護という観点からは消費者教育の重要度は低いと考えられていたのが要因であったのかもしれません。

バブル崩壊・平成不況期に再開

1990年代にバブルが崩壊し、平成不況に陥った時期には、国が主導する金融教育にも変化が現れました。

内閣府の特別機関である消費者保護会議(現消費者政策会議)の第18回・19回の報告書では「自立した消費者」という観点が登場しています。

当時、高齢者や若年者に対する悪質な金融商品等での契約被害に加え、複雑な金融取引の絡む商品によるトラブルも増加していたことから、消費者保護だけでなく消費者教育の必要性が認識されるようになったと推察されます。

学校金融教育についても前述の国民生活審議会で言及があり、若年層における消費者教育の重要性が説かれました。

学習指導要領の内容にも進展が見られたようで、特に小学校や中学校で金融教育が拡充されるようになります。

 

金融ビックバン以降、学校での金融教育が本格化

1996年に始まった金融・証券市場制度の大改革を金融ビックバンと言いますが、これ以降に学校での金融教育が大きく進展していきます。

2001年に前述の貯蓄増強中央委員会が“貯蓄”という言葉を外し、「金融広報中央委員会」に名称変更し、2004年には愛称を「マネー情報 知るぽると」に決定。2005年を「金融教育元年」と位置付け、学校における金融教育に軸足を置いて活動していくことになります。

2005年のペイオフ全面解禁や2008年のリーマン・ショックを契機に、個人の金融リテラシー向上が重要な課題として認識されていきます。

2007年に同委員会が発表した「金融教育プログラム」では、金融教育を「より豊かな生活やよりよい社会づくりに向けて、主体的に行動できる態度を養う教育」と位置づけ、授業で実践するための方法や具体例を明記しています。

2011年の学習指導要領においては、社会科ではマクロ的・家庭科ではミクロ的な内容の金融教育を取り入れられていますが、金融教育の中でも消費者教育に重点が置かれているのは1990年代と変わらなかったようです。

 

以上が、戦後から現在よりも少し前の2010年代までの学校における金融教育の変遷でした。

次回以降に、ここ最近の学校における金融教育について見ていきたいと思います。

投稿者プロフィール

安藤 宏和
安藤 宏和
「金融教育」と「資産形成カウンセリング」が専門の独立系FP。セミナー講師実績が豊富で、登壇回数はのべ400回以上、受講者はのべ5000人を超える。日本人の金融リテラシー向上と、iDeCo・企業型DC・NISA等を活用した資産形成への貢献をミッションに掲げる。趣味はお酒とB級グルメ。

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